アコヤ貝の感染症対策として低水温処理を併用した隔離養殖試験についての中間報告

企画の主旨

平成8年に貝柱の赤変化をともなう異常へい死が問題となってから5年が経過した。これまでに各県・各地域によって様々な取り組みがなされているが、感染症という問題は個人個人が対策を行うのではなく、ひとつの海域の漁業者が一体となり、問題の本質を正しく理解し、養殖中に現れる現象を科学的に分析して、協調した対策をとらなければ解決できない。
 三重県においても、諸事情はあろうが地域の漁業者が一体となった感染症対策が必要なことは言うまでもない。

今回の試験は三真連傘下の有志が行うもので、この養殖試験により感染症を克服できることを証明し、真珠発祥の地である三重県の真珠養殖漁場の回復を図る第一歩としたい。

尚、本試験の実施に当たり、大変な御理解と御協力を頂いた浜島漁協、並びに隣接業者の方々に深くお礼申し上げます。そして、三重県水産普及員室、同水産研究部、阿児町産業振興課、全真連、立神、船越両真珠組合の方々にも御協力頂いたことに感謝致します。

試験の内容

冬季に低水温漁場でアコヤガイを飼育することによって、感染症の発症を遅らせることが出来る事は周知の事実である。しかし低水温処理後に発症の進んだアコヤガイと混合養殖することで発症の時期が早くなることも示唆されている。

そこで今回の試験では、個々の避寒漁場において低水温処理を施したアコヤガイを集中管理する隔離漁場を確保し、未処理のアコヤガイとの接触を避けることで養殖期間中の再感染の防止を図る。これにより、どの程度へい死率や生産される真珠の歩留まりを改善できるかを調査する。

養殖試験を行うにあたり以下のような条件を設定した。

  1. 試験に使用するアコヤガイは履歴の明確な日本産アコヤガイとする表1。
  2. 養殖作業を通じて貝の生理状態を正しく把握する。
  3. 本試験では低水温負荷の基準を15℃として、それ以下の積算値が-100℃表2より低くなるものとする。
  4. 低水温処理後から挿核までは原則として隔離漁場で管理する図1 図2。
  5. 挿核時の再感染を防ぐため、基地筏への垂下は出来る限り避ける。
  6. 沖出し後、定期的に貝を剥き、赤変の度合いから発症の状況をチェックする。
  7. 発症が疑われた場合には次のような処置を行う。

①8月末までに発症が疑われた場合→他の海域へ移動する。
②9月以降に発症が疑われた場合→垂下水深を深くする。

結 果

《生理検査の推移》

A漁場  a値(色差計)で見ると9月25日にロット№13が5.46と急に発症が見られた為に取り揚げを行なった。№15、№18にもそれぞれ3.67、3.18と着色が認められた。一方、№20、№3については貝柱、グリコーゲン等肉質もよく個体間のバラつきも少ない。
 10月15日の調査では№20は1.55と着色は認められず、肉質も正常であった。また、№3は4.77と着色したが肉質は№20と同様でしっかりしていた。残る№15、№18はそれぞれ3.89、3.10と9月25日調査と大きな変化は認められなかった(図3) (図4)。

B漁場 9月5日には3つのロットでa値3.36、5.75、6.11と着色が見られ、9月25日から10月15日の検査日までは全体に着色が進行している。その中で№12、№14について着色と認められたのは10月に入ってからであり肉質も良かった。
全体的に見れば着色度はa値3.5~5.0レベルのロットが多く、湿肉重量、グリコーゲン、貝柱の数値は増加している(図3)。

C漁場 (低水温負荷のかからなかったロット群)  8月10日でa値3.44、2.69、2.18と着色及びそれらしい兆候が見られた。9月5日には№16に発症が起こり、肉質の内容からして取り揚げることになった。残ったロットについても内容の差はあるものの症状は進行している(図3) (図4)。

D漁場 ロット№19、23、24の10月15日でのa値はそれぞれ1.54、2.18、2.24と着色は認められず(図3)肉質も貝柱、グリコーゲン等も良好で正常であった。これらの斃死率は4~6%である。

対照区漁場 (混合養殖漁場)

ここには3つのロットが搬入されているが、8月10日の調査では全て正常値であったが9月5日には、№2でa値3.87と着色が見られた。9月25日の調査では№2、4、19でそれぞれ4.43、5.35、3.87と着色が進み、最終調査の10月15日には更に着色度の進行が見られた。

着色が認められず正常なロット群

A漁場の№20とD漁場に搬入した№19、23、24、これらについては、5月に入った早い時期に基地漁場を離れ、速やかに隔離漁場なり、またそれに準ずる沖養成漁場に運ばれている(図2)。 そして共通して言える事は、他の養殖貝との距離の関係及び垂下層の違いによって、直接的にそれらの影響を受ける事の無い状態に置かれている(図1)。

着色が認められたが体力のあるロット群

A漁場では№3、15、B漁場では№2、7、10、14、19、対照区の№2があげられる。これらのロット群は隔離漁場に搬入される以前、或いはその漁場内での再感染があったと思われる。中でもA漁場の№3は9月25日調査まで正常値を維持しており、最終調査で着色が認められたもののその肉質の内容は、貝柱重量、グリコーゲン等から見て良好な状態を維持している(図3―1、2、3、4)。

着色が早い時期より認められたロット群

  1. 低水温負荷のかかっていなかったロット群
  2. 着色の認められた時期から推測すれば6~7月頃に再感染を受けたもの。

低水温負荷をかけることの有効性

A、Bのロット群の発症時期と低水温負荷のかからなかったC漁場のロット群の発症時期を比較すると、後者はおよそ1ヶ月早い8月10日に発症の兆候が見られた。
 その後の調査においてもC漁場のロット群の着色度は、他の漁場のロット群に較べれば進行しており、肉質の内容、また斃死率からも症状の悪化が顕著である。

隔離することの有効性

B漁場にある№2、4、19のロット群は混合養殖漁場にも比較対照する為に搬入されている。
 8月10日、9月5日の調査日まではB漁場のそれらとは大きな変化は認められなかったが、9月25日の調査日で着色度に違いが出始めた。№4で見ればB漁場でa値3.65が対照区5.35となっており、NO.2,NO.19についてもB漁場で3.49、3.53が対照区で4.43、3.87と差が出始めた(図3―1)。
 最終調査日にはロットにより違いはあるものの、対照区漁場に斃死貝が出始めており、グリコーゲン、貝柱等にも違いが見られ(図3―4、5)、ハサキの伸長具合にも差が見られた。
 またこれとは別に異なった混合養殖漁場に同種の3つのロットが試験養殖されており、目視観察の結果、同様の報告を受けている。
 以上の事から隔離漁場の有効性が認められる結果となった。また、このことに関連してD漁場、B漁場、混合養殖漁場におけるロット№19のa値の違いを見ると、それぞれ1.54、3.58、7.43となっている。このことは漁場間(筏)における病原体の汚染度の違いとなって現れている。

ま と め

  • 本試験においても低水温負荷をかけることによる発症の遅延効果が認められた。
  • 隔離養殖する効果についても、発症の有無にかかわらず、着色度・肉質面での効果が見られた。
  • 低水温処理と隔離養殖を併用し、再感染を受ける事の無い様に作業を適切に行えば、発症を抑える事が出来る。
  • アコヤ貝の受けた病原体の汚染度によって発症度が違っている。
  • 水温は発症にもその遅延効果にも関係する。
  • アコヤ貝は体力でもって対抗している。

今後の課題と要点

  • 定期的な観測により低水温負荷を確実にかけること。
  • 病原体は19℃~20℃付近より活動が始まり、23℃あたりから爆発的に増殖すると言われていることから、このことを踏まえて素早く隔離された漁場に移動すること。
  • 少しでも疑わしいと思われるロットと同居する場合には垂下層を変えるなり工夫すること。
  • 定期的な開口調査を行なってアコヤ貝の生理状態を把握する。(特に着色度)
  • それでも発症の兆候が見られたものは、速やかに隔離するか、取り揚げること。

三真連特別養殖試験グループ


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